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福岡高等裁判所 昭和31年(ラ)117号 決定

抗告人 赤坂九十九

相手方 田中彌蔵

主文

原決定を取り消す

相手方が本件競売手続において交付を請求しうる債権は元金三〇万円及びこれに対する代金を交付する日から逆算し過去二年間百円につき日歩二〇銭の割合による金員とする

本件異議及び抗告費用は抗告人の負担とする

理由

一、本件抗告の趣旨及び理由は別記抗告状の通りである。

二、記録によれば、中川優は昭和二八年一〇月九日朝日金融株式会社から三〇万円を弁済期昭和二九年七月三一日利息百円につき日歩二〇銭遅延利息百円につき日歩三五銭の約で借り受け、これを担保するため即日自己所有の家屋及び物上保証人中川権太郎所有宅地二筆につき抵当権設定登記がなされたところ、抗告人は昭和二八年一二月二八日中川優及び中川権太郎から右抵当家屋並びに宅地二筆を買い受け即日その所有権移転登記をなし、また相手方は昭和二九年三月二二日前示抵当債権者から元金三〇万円及びこれに対する昭和二八年一〇月一〇日以降百円につき一日二〇銭の利息並びに同率の遅延損害金を抵当権と共に譲り受け、昭和二九年三月二三日その移転の付記登記を了したこと(遅延損害金についてはその全部を譲り受けた旨登記されているが、これは事実に副わないものである)よつて相手方は元金三〇万円と未だ弁済を受けない右金員に対する最後の二年分の利息及び損害金すなわち、該元金に対する昭和二九年六月二九日以降昭和三一年六月二八日まで日歩二〇銭の割合による利息及び損害金の満足をうるため抵当不動産の第三取得者たる抗告人を所有者、中川優を債務者として昭和三一年六月三〇日原裁判所に抵当権実行の競売を申し立てた結果、久留米市国分町井牟田一九九〇二番地の四田中彌蔵(相手方と住所は異るも、あるいは相手方と同一人ではないかと思われないでもない)に対し競落許可決定があつて、該決定は確定したのであるが、その後抗告人は原裁判所に抵当債権のうち利息及び損害金の額の不当なることを主張して執行の方法に関する異議を申し立てたのに対し、原裁判所は論旨第一点のように判示しこれを排斥したことが認められる。

ところで右認定によると、本件消費貸借は利息については旧利息制限法の適用を受けて最高年一割の制限に服すべきであり、また遅延損害金については、貸主が会社たる朝日金融株式会社であるから、相手方が同会社から債権の譲渡を受けた後においても、利息制限法附則第三項による削除前の商法施行法第一一七条により旧利息制限法第五条の適用を受けないので、結局相手方が譲り受けた日歩二〇銭の割合による金員となすべく、ことは相手方が「貸金業等の取締に関する法律」または「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」所定の貸金業者であると否とによつて消長をきたすものではないので、論旨第二点中右説示に反する部分は採用のかぎりでない。

しかしながら、本件においては競落許可決定が確定していることの前認定の通りである以上、爾後の競売手続としては競落人の買入代金支払とこれが交付を残すのみであるところ、競落人は執行裁判所が代金支払期日を指定したと否とにかかわりなく、いつにても買入代金を支払うことができ、裁判所は右期日前の支払であるという理由でこれが受領を拒みえないし、競落人が抵当債権者である場合は(もし競落人田中彌蔵が相手方と同一人であるとすれば、本件はこの場合に当る)、民事訴訟法第六九九条の規定に準じ、買入代金額から自己の交付を受くべき金額を差し引いた残額を支払うことによつて、買入代金の支払をなしうるのであり(昭和一一年二月一九日大審院第四民事部決定一五巻二二五頁)、しかも競売法による不動産競売手続においては、必ずしも代金交付期日(いわゆる配当期日)が定められるとはかぎらず、また、民事訴訟法第六九七条第六三三条第六三四条所定の債権確定の方法に関する規定は準用されないのである(昭和一六年一二月五日大審院第二民事部判決二〇巻一四四九頁)から、代金交付手続が執行の方法としてなされるものたる以上は、本件のように競落許可決定が確定した後に、抵当権者の債権額を争う異議の申立があつたときは、執行裁判所として当然抵当権者が交付を請求しうべき債権額を競売手続の上において確定すべきであつて、これを消極に解せんか物上保証人、抵当不動産の第三取得者の保護を完うすることはできないのである(昭和三〇年八月三〇日当裁判所第二民事部決定八巻四三三頁参照)。

記録によれば、本件において相手方の外に代金の交付を受くべき劣後債権者の存することが明らかであるから、相手方の交付を請求しうる抵当債権額は民法第三七四条に従い元金三〇万円並びにこれに対する代金交付日から逆算し過去二年間の前説示の日歩二〇銭の割合による遅延損害金となすべきである。

以上と異る原決定は不当であるからこれを取り消し、費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条を準用し主文の通り決定する。

(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)

抗告状

福岡県三井郡小郡町大字小郡一六八九

抗告人 赤坂九十九

執行の方法に関する異議申立却下に対する抗告

右抗告人は福岡地方裁判所久留米支部昭和三十一年(ヲ)第八七号強制執行の方法に関する異議申立事件に付昭和三十一年十月十八日同裁判所が為したる異議の申立却下の決定に対し即時抗告を為すこと左の如し

抗告の趣旨

原裁判を取消し更に相当なる裁判を為すことを原裁判所に委任せられんことを求むる

抗告の原因

一、原審の決定理由に依れば『申立人の主張する事由は右民事訴訟法第五四四条にいわゆる強制執行の方法又は執行に際し執行吏の遵守す可き手続に関するものではなくまた執行吏か執行委任を受くるを拒み若くは委任に従ひ執行行為を実施することを拒みたる又は執行吏の計算せし手数料に付き異議あるときに関するものでもないから本件異議の申立は未だ理由がないこと明らかであるとして異議申立を却下されました

一、然るに申立人が求むる執行方法に関する異議の目的なるものは異議申立書の申立の理由に記載するが如く被申立人田中彌蔵は貸金業者にあらざるを以て仮令金融業者の債権を譲受けたとしても譲受け後の利息は利息制限法に依り利息制限法所定の利率以上の利息を請求することは不法である然るに執行裁判所は利息制限法所定の利率を超過して居ることを許容して居るのである。若し右超過する利息に依り配当せられんか債務者並に所有者の損害は多大であるから其利率の更正を求むる為め異議の申立を為したもので正に右の事項は執行処分に属すものと信ずる而して異議の目的物換言すれば異議に依り請求するものは執行処分の全部又は一部の取消強制執行の不許又は行ひつつある執行行為の停止又は執行行為の結果の除去等であると信ずる故に異議は手続の不法を匡正し執行手続を適法に進行終了せしめんことを目的とするものと思料する尚ほ又民訴五四四条は総則の規定であり且つ汎く執行の方法に対する異議を認めて居るのであるから執行吏に対するは勿論執行裁判所の執行行為についても亦本条の適用に入ると解すべきものと思料する

右の理由に依り不法なる利息の計算を更正せしむることは寔に必要と利益あるに拘らず申立を却下せられたるは失当なるにより前記抗告の趣旨に掲ぐる如き裁判を求むる為め本抗告を為したる次第であります

右抗告に及びます

昭和三十一年十月二十三日

右抗告人 赤坂九十九

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